Lord Marvel 36000 / Vintage Seiko 5740-8000

Lord Marvel 36000 / Vintage Seiko 5740-8000

これまで15年程、時計修理技師として様々な時計と向き合ってきましたが、ヴィンテージウォッチの中で、世界で一番モノづくりが良いと感じたのは、ヴィンテージセイコーのロードマーベル36000でした。

1967年〜1978年、SEIKOの高級ラインとして製造されていたロードマーベル36000。元々あったマーベルシリーズの一つとして誕生しました。

 

『ハイビートムーヴメントを初採用』

スイス製時計が高級、高性能の代名詞であった1960年代、SEIKOは"世界に挑戦する時計"として、ハイビートムーブメント(テンプといわれる部品が高速で振動する機構。この振動数が高いと時計の精度が上がる)を開発。

60年代後半には、精度(時を刻む正確さ)を争う世界コンクールで頂点に立ちました。それ以降、コンクールが廃止されたのは、日本製時計に脅威を感じたスイスが、自国ブランドの価値を守るためであったとも言われています。

このハイビートムーヴメントを日本で初めて採用した時計がロードマーベル36000でした。8振動以上をハイビートと呼びますが、ロードマーベル36000は10振動。テンプと呼ばれる部品が1秒間に10回振動、それを1時間に換算すると36000回。この数字がロードマーベル36000の名前の由来にもなっています。

 

      『時計修理技師視点で感じる素晴らしさ』

ロードマーベル36000にはCal.5740というムーヴメントが採用されています。僕が時計修理技師として感じる素晴らしさは『丈夫に作った部品を極めてシンプルに組み上げている』ということです。

まず、部品の丈夫さというのは、素材である金属の質が大きく影響します。混ぜる金属の割合などによって、硬度や耐摩耗性は変わるため、設計が同じ歯車であったとしても、摩耗していくスピードは全く異なります。ロードマーベル36000は、歯車にしても、受け板(金属の板)一枚にしても、とても丈夫に作られています。

前述で、ロードマーベル36000はハイビートムーヴメントを採用していることをお伝えしましたが、時計は一般的に振動数が上がるのに比例して、部品への負担が大きくなり、摩耗しやすくなります。そのため、現代の時計でも10振動を採用している時計はごくわずかです。

これを前提とすると、ロードマーベル36000は摩耗しやすいムーヴメントに該当するはずですが、僕の修理経験上、そのようなことはほぼありませんでした。これもロードマーベル36000の丈夫さを確信させるエピソードの一つです。

よくネットで目にする『ハイビートは摩耗しやすく、壊れやすい』という情報は、一定正しいと思いますが、ハイビートの時計全てがイコールではないということは、お伝えしたいことです。

ロードマーベル36000を始め、僕がセレクトしているキングセイコーやグランドセイコーのモデルも、ハイビートでありながら摩耗が非常に少ないというのが実際のところです。

そしてシンプルな組み上げについて。

時計というのは、ムーヴメントによってそれぞれ構造が違います。"針を回す"というゴールは同じでも、そこまでのアプローチは本当に千差万別。

その中でもロードマーベル36000は、極めてシンプルに動力を伝える構造になっています。

これは僕の考えになりますが『可能な限り長い期間、時刻を正確に示し続ける』という時計の本質においては『丈夫な部品を極めてシンプルに組み上げる』というアプローチが最も正しいと思います。

結果的に、ロードマーベル36000は、50年以上経っていても、適したメンテナンスを行うことで、現代の一般的な機械式時計以上に、日差(機械式時計の1日における遅れ・進みの度合い)が少ないということも起きています。

 

『デザイン』

ロードマーベル36000のデザインは、シンプルなことが特徴の1つです。シンプルで普遍的なデザインは、飽きが来ないということや、様々なベルトに合わせやすいという良さがあります。

また、ケースサイズが34ミリと、現代のメンズサイズよりも少し小さめです。まだ海外の時計文化が入りきる前の時代ということもあり、日本人の体格に本質的に合ったサイズであり、ファッションにも取り入れやすいスタイルだと思います。

 

  『ロードマーベル36000のラインナップ』

これまでお伝えしてきたことが、僕がご提案している『安心して永く楽しめるヴィンテージウォッチ』のラインナップに、ロードマーベル36000を入れた理由でもあります。最後にそのラインナップをご紹介したいと思います。マットブラックのモデルについては、ウチムラのオリジナルカスタムです。

 

  Lord Marvel 36000 Bar Index

丸い文字盤にバータイプのメモリ、極めてシンプルなモデル。時計の本質を感じるデザインは飽きがこず、シンプルな分、どんなベルトでも合うので、ご自身のファッションスタイルに合わせて楽しむことが出来ます。

 

 Lord Marvel 36000 Arabic Number

近代ではあまり見かけないアラビア数字のインデックス。シャープではなく、どことなく温かみを感じるフォントが特徴的。よく見ると文字盤には絹目のような線が施されており、このロードマーベル36000ならではの独特な雰囲気を纏っています。

 

Lord Marvel 36000 Black

ロードマーベル36000 バーインデックスの文字盤を、当店でマットブラックにカスタムしたモデル。シックで高級感ある雰囲気に。

 

 Lord Marvel 36000 Black & White

ロードマーベル36000 アラビア数字の文字盤を、当店でマットブラックにカスタムし、インデックスは白く塗装したモデル。取り付けるベルトによって、モードテイストであったり、ミリタリーテイストとしてもお楽しみいただけます。

 

Lord Marvel 36000 Stelth

ロードマーベル36000 アラビア数字の文字盤を、当店でマットブラックにカスタムし、インデックスも黒に塗装。文字盤とインデックスは同色ですが、塗装の種類を変えて、わずかなコントラストを出しているので、光の具合でアラビア数字が見え隠れします。モードテイストなロードマーベル36000。

 

『エピローグ』

およそ6年前(現在2025年)、僕がロードマーベル36000の提案を始めた頃は、本当にニッチで、一般的には見向きもされていないモデルでしたが、様々なお店様とご提案の取り組みを行ってきたことで、認知や評価はすごく上がったなぁと感じています。今後も相変わらず、ロードマーベル36000の素晴らしいモノづくりを丁寧にお伝えし、また、その提案が皆様の少しの豊かさにつながれば幸いです。

ロードマーベル36000については、ここに書ききれなかったお話もまだまだあるので、ご来店の際には、ぜひお声がけ下さい。

 

      『おまけ』

時計を全くコレクションしていない僕の唯一のコレクション。ロードマーベル36000の特殊モデル。

通常、ロードマーベル36000のモデルナンバーは5740-8000ですが、こちらは5740-8009。LORD MARVEL 36000のロゴはなく、代わりに『36M』の文字。

ネット上でも、ほぼ情報が出てきませんが、おそらく当時海外向けに製造され、一瞬で没になった(?)希少なモデルなのかと…

希少とはいえ、プレミア的な面での価値は全くないと思いますが、世界で一番ロードマーベル36000を多く修理してきたのは僕で間違いないと思うので、僕がこれを保持しているというストーリーは、まともかなぁと思い、コレクションしています。

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