5月24(土)25日(日)、ウチムラにて、メガネ職人・澤口さんによるオーダーメイドメガネの受注会を開催いたします。
メガネづくりというと、一大産地である鯖江が有名ですが、鯖江の職人であっても、メガネの製造は主に分業制で、機械を使用しての製造がほとんどです。
これに対し澤口さんは、全工程を一人で行っており、その多くを手作業が占めています。全工程を一人で行うことで、工程をまたぐ際に起きるひずみは小さくなり、より精度の高いメガネとなります。
また、手仕事だからこそ出来る曲面や稜線、美しい艶にこだわっておられ、丁寧な手仕事の積み重ねによって生み出されるメガネは、他にない雰囲気を纏った、とても美しいモノとなります。
多くの時間と手間を要することもあり、このようなスタイルのメガネ職人は、現在日本でも数人しか存在しません。
澤口さんとの出会い
私達が澤口さんと最初に出会ったのは、およそ4年前。夫が友人から「埼玉にオーダーメイドで、メガネ作りをやっている職人さんがいるんだよ」と聞き、お邪魔してみることに。
業界は違えど、同じ『職人』である夫は、澤口さんの丁寧な仕事ぶりに感銘を受け、その場でオーダー。それからは、いちユーザとして澤口さんのメガネを楽しんでいました。
夫に続き、昨年、私もついに澤口眼鏡舎さんへ!澤口さんとお話をしながら、形や生地を選んでいきます。
普段からたくさんの眼鏡を見ているので、澤口さんにお願いするのであれば、やはり手仕事を感じられる形が良いと思い、機械生産では難しいカッティングが施されたモデルをオーダーしました。まだ手元には届いていないのですが、本当に楽しみです。
職人としては異色の経歴
埼玉県川越市にあるオーダーメイドのメガネ工房『澤口眼鏡舎』のオーナー兼、メガネ職人である澤口さん。
今でこそメガネづくりをされていますが、元々は、日本人なら誰もが知っている大手IT企業で『プロダクトデザイン』をされていました。
その中でも、実際に手を動かしてモノづくりをすることが好きだったとのことですが、年次が上がるにつれ、そういった現場からは離れざるを得なくなり…『昔のようにもっと手を動かしたい…』と、少し退屈さを感じるようになっていたそう。
そんなある日、自分のメガネを新調しようと思っていたところ、奥様から『近くにセミオーダーでメガネをつくれるお店があるみたいよ』と聞き、行ってみることに。そのお店は2階が工房になっており、その場でメガネづくりをしていたようで、その時に『メガネってつくれるんだ!』と知り、そこで一気にスイッチが入ったそう。
何とか一人前の材料を調達し、一か八か作ってみたところ、それが何となく形に!そこからメガネづくりにハマり、さらなる製作のため、鯖江のメーカーに突撃し、自分で作ったメガネ見せながら、材料を手に入れるルートを確保したそうで、その行動力には私も驚きました笑
それからというもの、メガネを作っては会社に持って行って、デザイン部の同僚に販売をしていたとのこと笑
デザイン部というだけあって、デザインやクオリティにこだわりの強い人が多く、自然とメガネづくりがブラッシュアップされていきました。
ある時、日本最大のクラフトイベントでもある『松本クラフトフェア』へ出展した澤口さん。自分のメガネを喜んでくれる方が多いことに手応えを感じ、会社を退職し起業。川越にある古民家を改装し、澤口眼鏡舎が誕生しました。
オーダーメイドという稀有なスタイル
最初はハンドメイドの1点ものとして、メガネを販売していた澤口さん。とあるクラフトフェアで、お客様から「昨日あったメガネ、売れてしまったようだけど、注文はできないの?」と言われ、咄嗟にその方のお顔のサイズを計測し、受注。製作し、後日お渡しをしたところ、とても喜んでいただけたそう。
『メガネって既製品がほとんどだけど、サイズを測ってつくるだけで、こんなに喜んでくれる人がいるんだ!』
それがきっかけとなり、サンプルやカラー生地を揃えてのオーダーメイドスタイルに。
実は澤口さんが『人の顔のサイズは測れる』と知っていたのは、IT企業に勤めていた時代にウェアラブルプロダクトの担当者が、"顔幅計測器"を持っていたことからでした。『もし顔のサイズを測れることを知らなかったら、今はメガネの量産をしていたかもしれないです』とおっしゃっていて、自分の経験がいつどんなことに役に立つかは本当にわからないものだなぁ…と思いました。
メガネ職人・澤口さんにインタビュー
先日、貴重なお時間をいただき、時計修理技師である夫と、澤口さんにインタビューをさせていただきました。
Miki
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます!
私もメガネの仕事に携わるようになってからは、本当にたくさんのメガネを見てきましたが、私が澤口さんのメガネを初めて見たときの印象は、これはすごく稚拙な言い方になってしまうのですが『独特の雰囲気』があるということでした。もちろん良い意味でですが、立体感があるというか…深みがあるというか…これってどういうことなんでしょうか?笑
澤口さん(以下、敬称略)
僕が企業勤めでプロダクトデザインを行っていた時、最も大事だと言われていたことの一つは、プロダクトに『Rをつける』ということでした。それによって綺麗な艶であったり、面の豊かさが生まれるんです。昔は形どうこうということ以上に、どうハイライトをつけるか、光と影をどうするか、そんなデザインの教育がよくされていました。
今お持ちのiPhoneもよく見ると微妙なRがつけられていますよね。Apple製品なんかは、その象徴みたいなものです。
そんな僕のデザインの"クセ"があって、メガネづくりでも必ずRをつけています。一般的なメガネを見た時に、そういった表現がされているものってほとんどないので、僕としてはそれが少し物足りなくて…結果的に、それが僕のメガネの特徴になっていったというのはあるかもしれません。なので『独特な雰囲気』というのは、そこを感じ取ってもらえたということだと思います。
Miki
なるほど〜。澤口さんのメガネづくりが、企業にいた時の経験から来ていたというのは、すごく面白いです!私が感じた独特な雰囲気も納得出来ました。
メガネをデザインする際の、こだわりってありますか?
澤口
メガネづくりを始めてからは、出来るだけデザインしないことを心掛けています。既知のデザインを大切にするというか。
企業でデザインしていたときは『他者との差別化』というワードが、本当は来てはいけないと思うんですけど、まず一行目に来てしまっていて…それで生み出した新しいデザインって、どうしても無理に作った感じがあって、僕はしっくり来ないんですよね。
長い歴史の中で認められてきたデザイン、昔あって今もあるというのは、素晴らしいデザインということだと思うんですよね。
例えば、僕なんかは昔の映画を観ていて『おっ!このメガネカッコいいぞ』と思ったら、その時の印象でサッとスケッチして、それを少しだけ現代風にしたり、日本人が掛けやすいサイズや鼻幅にアレンジしたりするんです。そのアレンジが僕にとってのデザインかもしれません。メガネは、太さや形を少し変えただけでも、印象がすごく変わりますしね。
面白いのは、僕がいたデザイン部の人間も、新しいギラギラしたデザインが好みって人はいなくて、実際はクラシックなデザインが好みの人がほとんどだったんですよ笑
Miki
なるほど〜。これも企業にいた時の経験が活かされているんですね。
太郎
僕は時計修理技師ということもあって、人から『職人』と言っていただくことが多いのですが、澤口さんもきっと同じだと思います。澤口さんにとって、職人の定義みたいなものってありますか?
澤口
うーん、これ本当ダメかもしれないんですけど…笑
"何年やったか"っていう数字なのかなと思っていて。こんなの全然定義じゃないかもしれないなぁ笑
僕なりにですけど、常にやれることは全てやっていて、ただこういうのってゴールがいつかはわからないわけじゃないですか。そうしたら数字なんじゃないかなって思ってます。
むしろ、僕は職人って名乗る必要もないと思っていて。『職人』という言葉は、どこかゴールしてしまっている感じがありませんか?"職人になれた"みたいな。だから僕としては、常にやれることを全てやって、いつか自分に限界がきた時に、いいかげん職人って言っていいかどうかぐらいかなって。太郎さんはどうですか?
太郎
恐縮ですが、めちゃくちゃわかります…
例えばですけど、仮に今の時点で一人前になれたと自分が思ったとしても、5年後の自分から見れば、それは稚拙なわけであって。また10年後から見れば5年後も稚拙という、その繰り返し。それに、そう思えるように日々を過ごすことが大切だと思うんですよね。
澤口
そうですよね!
僕自身は職人としてどうこう、という方向は向いていなくて、そこってどうでもいいんです。決して綺麗事を言いたいわけではないのですが、僕が大切にしているのは、お客様一人一人が欲しいと思うものに、どうアジャストしていくかというスキルを、ここ6、7年磨いているという感覚ですね。
太郎
それも、めちゃくちゃわかります!
僕も誤解を恐れずに言うと、職人仕事であったり、時計修理やメガネというのは、ただのツールであって、あくまでもゴールはお客様が喜んでくれることなんですよね。
澤口
そう、そこが一番楽しいですよね。
Miki
深いなぁ…。澤口さん、本当に興味深い話ばかりで、本当にありがとうございました。オーダー会、楽しみにしています!
エピローグ
職人としては異色の経歴である澤口さん。そのお話の中で、異なる業界での経験が、今のメガネづくりに活きているというのは大変興味深く、似たような経歴でもある私にとって、大変勉強になり、どこか励みにもなりました。
また一方で、その時やっていることを、自分なりに日々全力で取り組むことの大切さも改めて感じました。
澤口さんのこれまでのお話を聞いていると『その時その時、懸命に取り組むことが、振り返った時に、点と点が繋がり大きく活きてくる』というスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチを思い出しました。
澤口さんのメガネは、プロダクトとして美しいこと以上に、お客様一人一人が求めているメガネを具現化しているということが、とても素敵だなと思います。今回の受注会でもサンプルは約70種類。それをベースに、カラーや大きさ、厚みを変えたり、お好みに合わせてアレンジが可能です。ぜひオーダーメイドの醍醐味をお楽しみいただければ幸いです。
オーダーイベント詳細について
5月24日(土)25日(日)、2日間での開催となります。約70種類あるサンプルから形と、お好きなカラー生地を組み合わせていただきます。最後にお顔サイズ、耳位置の測定をし、それに基づいて製作していきます。価格は、デザインや生地によって異なりますが、7万円〜8万円のものが中心です。納期は2025年12月を予定しております。
セッション時間は約1時間、予約制となりますので、ご希望の方は、公式LINEにお問い合わせをお願いいたします。手作業での製作のため、沢山お作りすることが難しく、本数を限定してのオーダー会となります。満席の場合にはご容赦くださいますようお願い致します。


