時計修理技師である私がヴィンテージウォッチの提案に至ったきっかけ
私は2010年に家業に入り、時計修理技師としての道をスタートしました。ここから約10年間は、お客様からお預かりした時計の修理にひたすら向き合う、いわゆる “時計修理店” としての日々でした。
普段使いの時計のメンテナンス、ご家族から受け継がれた時計や長く眠っていた時計の再生など、さまざまなご依頼をお受けする中で、多かったものの一つが他店やネットオークションで購入されたヴィンテージウォッチの修理でした。
当時の私は『なぜ購入したお店に修理をお願いしないのだろう?』と不思議に思っていましたが、お客様にお話を伺ううちに、その理由が見えてきました。
・修理部品がなく、購入店では修理ができなかった
・修理してもらったが状態が改善せず「ヴィンテージだから仕方ない」と言われた
・ネット購入のため、どこへ修理に出すべきかわからない
大きく分けると、そんな声がほとんどでした。お店のスタイルに正解・不正解があるわけではありませんが、私の感覚としては『自分がお客様にご提案するものは、最後まで責任を持ちたい』という、当たり前とも思える想いが強くありました。そして、それがあまりにも行われていないヴィンテージウォッチ業界の現状に、強い違和感を覚えたのです。
また、自分なりに時計修理技師として日々技術を磨いていく中で、無責任にヴィンテージウォッチを販売したお店の “尻拭い” をするような状況にも、やはり本望ではないという想いがありました。
『自分が本当に時間を使うべきこと、お客様のためにやるべきことは、もっと別にあるのではないか』
そう考えるようになったのです。
もちろん他店購入された時計の修理を全てお断りする意図はまったくありません。これはあくまで 自分の中で持っておくべき "心構え" としての話です。
そして同時に「ヴィンテージウォッチに興味はあるけれど、踏み出せない…」という方が非常に多いことにも気づき『もっと安心して使えるヴィンテージウォッチがあればいいのに』と思うようになりました。
ヴィンテージウォッチを楽しむための『安心』とは
私が考えた「安心」は、大きくわけて3つです。
①時計修理技師から直接話を聞けること
実際に分解・整備している時計修理技師ほど、その時計の状態を深く理解している人はいません。現物を前に、状態や整備内容について直接話ができることは、お客様にとって大きな安心につながると思います。
②購入後も同じ時計修理技師に相談できること
使用する中でトラブルが起きても、時計の状態を把握している時計修理技師にすぐに相談できることは、永く使ううえで心強いことだと思います。
③時計そのものの構造が丈夫であること
そもそも耐久性の高いモデルをセレクトしておけば、使用中のトラブルは減り、安心して使うことができます。このセレクトの "見極め" については、私がこれまで積み重ねてきた修理経験をもとに行なっています。
ヴィンテージウォッチを『永く使う』には
ヴィンテージウォッチを永く使うには、高い修理技術が欠かせませんが、同時に重要なのが “修理部品を確保できるかどうか” です。
ヴィンテージウォッチは、およそ50年以上前の時計のため、修理部品を探すのは簡単ではありません。どれほど丁寧に整備しても、経年した時計である以上、この先使用していく中でのトラブルを完全にゼロにするのは現実的ではないと考えています。
だからこそ
・修理技術
・修理部品のストック
・それを継続できる仕組み
これらの3つが不可欠です。
嬉しいことに、メディアでは私の修理技術に注目していただくことが多いのですが、実はヴィンテージウォッチを永く楽しむために本当に大切なのは、この時計修理技師ならではのノウハウを活かした “仕組み作り” なのです。
ヴィンテージウォッチを永く楽しむために本当に重要なのは、時計修理技師ならではのノウハウと知見によって実現できる "仕組み作り" です。
同じモデルを扱っていたとしても、安心して永く楽しめるかどうかは、この裏側で大きく変わります。
私のセレクト基準とラインナップ
一般的なヴィンテージウォッチ店では、デザインや希少性を重視してセレクトされることが多いため、多種多様なブランド、そして多くのモデルが並びます。一方私は、時計修理技師としての経験と視点からセレクトしています。
・丈夫なムーブメントが使用されている
・今後も修理を継続できる構造か
・修理部品の確保の仕組みつくりが可能か
これらを基準に “安心して永く楽しめるヴィンテージウォッチ” だけを選んでいるため、セレクトしているモデル数は多くありません。
結果的に『SEIKO』『Cartier』『OMEGA』この3つブランドからの厳選モデルのみとなっております。
SEIKO
Lord Marvel 36000 (ロードマーベル)



King Seiko (キングセイコー)




Grand Seiko(グランドセイコー)






これらのヴィンテージセイコーのモノづくりは、機械式時計として世界で一番の精度・耐久性を持っていると感じています。
Cartier
Cartier Must Tank Quartz SM / LM (マストタンクSMサイズ、LMサイズ)







カルティエマストタンクには機械式タイプも存在しますが、私が素晴らしいと感じたのはクォーツタイプ(電池式)でした。極めてシンプルなムーブメント構造と、カルティエブランドによる修理の仕組みづくりは秀逸です。
OMEGA





時代背景的に、ブランドがレディースウォッチに積極投資しづらかった中で、圧倒的なモノづくりの良さを感じる機械式レディースウォッチです。オメガについてはレディースのみのセレクトです。
時計修理技師としての想い
時計修理技師の私としては、ヴィンテージウォッチはご購入いただいてからがスタートだと思っております。およそ50年経ったモノですので、お使いの中でのトラブルを "完全に0" というのは現実的ではありません。ですが、トラブルになった時に直せる修理技術と環境を整えておくことはできます。
ヴィンテージウォッチを安心して永くお楽しみいただく、そのためのお手伝いができればと思っております。
時計修理技師がご提案するヴィンテージウォッチ、気になる方はぜひお声がけください。