熊本の名店「Signs / Debby」×「内村時計店3代目」対談 前編

熊本の名店「Signs / Debby」×「内村時計店3代目」対談 前編

4年にわたり、時計修理技師として様々なお店様とヴィンテージウォッチイベントを開催してきました。その中で感じた『名店』と言われるお店の魅力は、そのお店のオーナーさんが醸し出す独自の雰囲気や、またその空間での買い物が新たな発見をもたらしてくれるという心地良さにあると感じています。

 

そんなこれまでの体験を通じ、今回はファッショントレンドの発信基地といわれてきた熊本にある名店「Signs」(北口さん)と「Debby」(藤川さん)に焦点を当て、その実態と秘訣に迫っていきます。

 

『Debby』

”藤川さんによる愛溢れる圧倒的なセンスとアート”

まずは藤川さんがどのような経験を積み重ね、なぜ「Debby」を始めることになったのかを教えていただけますか?

 

藤川さん(以下、敬称略)

元々ずっとアパレルに勤めていたのですが、辞めて1年半ぐらい離れた時期がありました。その時に元同僚の北口くん(Singsオーナー)が新しくレディースショップを出店するので、一緒にやらないかと誘ってくれて。

 

全てを任せると言ってくれたこともあって、自然とここが私にとっての居場所なのではないかと思い、心地よい気持ちでスタートを切ることが出来ました。

 

内村

以前働いていたアパレルショップは長かったのですか?

 

藤川

そこはとても長かったです。その前にもアパレルで働いていたんですけど、そこからの引き抜きがあって、それで働いたという感じですかね。

 

内村

お〜引き抜きなんてあるんですね! 藤川さんは幼少時代から洋服がお好きだったんですか?

 

藤川

私のお爺ちゃんお婆ちゃん、叔母がすごく洋服好きで、いつも着せ替え人形のように洋服を買ってくれていたので、それが今につながっている気がします。

 

内村

ご親族の方々もアパレル関連で働かれていたとか?

 

藤川

全然そういう関係ではなかったのですが、洋服が好きで、すごくお洒落な方だったと思います。

 

内村

やっぱりそういう幼少期からの経験がきっかけになったのですね。熊本は『ファッショントレンドの発信基地』と言われてきた場所ですが、その頃からそのような場所だったのですかね?

 

藤川

さすがにお爺ちゃんの時代は分かりませんが、叔母は洋服に夢中だったみたいです。なんか熊本は人口対して洋服屋と美容室、歯医者さんが多いって聞きます。

 

内村

全国的に美容室や歯医者は多いって聞きますけど、洋服屋さんは特殊ですよね?

 

藤川

たしかにそうですね。個店さんが頑張っているのがその理由にもなっているのかなと思います。

 

 

"Debby"ではアート要素とアパレルがうまく融合しているように感じますが、そのアプローチについて教えていただけますか?アートがファッションに与える影響についてもお聞かせください。

 

藤川

正直、そんなに深く考えているわけではないんですけど、自分は人よりも色んなものに興味があるので、それを何かにつなげたり、反映させたいなという気持ちは強いんです。もしかしたら、そういう部分がそう見えているのかもしれませんね。自分自身を売るという感じかなぁ…

 

内村

"自分自身を売る"ってどういうことですか?

 

藤川

自分がこういう人だから来てほしいとか、そんなイメージですね。

 

内村

なるほど。そういう意味だと、ファッション以外の情報も捉えたり、発信することが大切になってきますよね。

 

藤川

Debbyのインスタでも好きな映画の話だったりをあげているんですけど、洋服だけを売るなら映画の情報なんていらないじゃないですか。ただ、私はこういう人なんですって伝えるには、そういう要素も必要だと思うんですよね。多分、周りからは洋服屋さんなのに変な人って思われるかもしれないですけど(笑)

 

でもそこからお客様が映画を見に行ってくれたり、興味を深めてくれたりすると、そういうお話が出来るようになったりもして、それが楽しいんです。

 

内村

あくまでも主観的にはなりますが、藤川さんは他のアパレルの方よりもジャンルの幅が広いように感じられます。それはやはり興味の幅が広いということですかね?

 

藤川

そうかもしれませんね。他のアパレルで働いている方とは違った視点や興味を持っているように思います。ファッションに繋げたいからとか、そういう視点では考えていないですね。

 

内村

それは自分の好きを正直に伝えるような感じですか?

 

藤川

本当にそんな感じだと思います!

 

内村

勝手なイメージですけど、インスタだったり、実際にお会いする藤川さんはとても自然体に感じます。

 

藤川

考えたことはないですが、嘘は付けない人間だと思います。

 

内村

お話を聞いてわかったことは、「自分の好き」をしっかりと表現して「私はこういう人なんです」ということをお客様に伝え続けていることが、結果としてアート的な要素と融合しているように見えているということなんですね。

 

 

セレクトされている商品は丁寧にこだわって作られており、また全体的にレディースすぎないという感じもしますが、どういった基準で商品をセレクトされているのでしょうか?

 

藤川

近年はどこのお店も横並びのセレクトになってしまいがちなので、個々に力強い商品をしっかりとセレクトしていかないと、この時代に生き残っていけないかなと考えています。また、自分の好きなものを選ぶことが重要ですが、基本的には『カジュアルを知らずしてファッションは語れない』と思っているので、そこが根底にありますね。

 

内村

カジュアルとは具体的にどのようなイメージなんですか?

 

藤川

カジュアルはあくまでもベースで、それだけになってしまうと女性はNGだと思っています。例えば、枠にハマりすぎてワンピースにスニーカーは合わせられないという女性もたまにいらっしゃいますが、そうするとつまらなくなってしまうと思うので。甘いだけでも駄目だし辛いだけでも駄目じゃないけど、その辺りのバランスはとても大切にしています。

内村

そうなんですね。ラインナップからも、かなり緻密にセレクトされているのが伝わってきます!

 

話が少し戻ってしまうのですが、独立された後にこういうお店にしていきたいというのは、どんなきっかけがあったのですか?

 

藤川

北口くんが好きなようにやっていいよっていうのが一番のきっかけです!私はお洋服が好きで、食べることも好きで、カルチャーも好き。その全てを融合させていきたいという想いがありました。そして自分が出会った人たちと一緒にお店を良くしていきたいという想いもあります。

 

定期的に食に関するイベントも開催しているのですが、売上がどうこうというよりも、やっている人達が潤って、そこに来るお客様にも喜んでもらえればハッピーかなとか、そういう想いでいます。 正直、大変さももちろんありますが、それでもやっぱりみんなの笑顔が見たいですね。

一昨年イベントさせていただいた北海道の中標津にあるRange Lifeさん

 

内村

北海道の中標津という、北方領土が見えるような場所で営まれているRange Lifeさんというお店があるのですが、そこでイベントをさせていただいた時にも、オーナーの半田さんが同じようなことを仰っていたのをすごく思い出しました。お客様や提供者が楽しんでくれることを、まず大切にしている姿勢というのは特に地方のショップ特有の文化なのかもしれないですね。

 

藤川

そうかもしれませんね。やっぱりみんなが楽しい方ががいいですよね。

 

内村

たしかに。長い目で見ると、それも結果としてプラスになってくるのだと思います。

 

 

お店にいる時に藤川さんが考えていることや、休日などの過ごし方についても教えていただけますか?

 

藤川

最近は山登りにハマってしまっています!休みのたびに行きたいくらいの気持ちです(笑)

 

熊本って九州の真ん中あたりでアクセスもいいので、九州中の色んな山に行っています。初めてまだ1年ちょっとですが。

 

内村

きっかけは何だったんですか?

 

藤川

お客様で山登りを始める人が増えてきて、そのお客様のインスタを見ていると、地上と山では全く違う表情をしていたんですよ!そこには何かあるんだろうなと思って!

 

ある一人の子が雪山の写真をアップしていて、私が昔から白いものに惹かれやすい傾向があったというのもあるんですけど、それを見た瞬間これを経験出来るなら自分もしてみたい!と思って(笑)

 

内村

雪山にはもう行ったのですか?

 

藤川

もう行きました!雪山はやっぱり怖いですね。でもそれ以上の魅力があります!

 

内村

これももしお店をやっていなかったら山登りを始めていないかもしれないですよね?

 

藤川

そうかもしれませんね。

 

内村

お店を始めてから、山登り以外にこういった風に考えるようになったことなどありますか?

 

藤川

ん〜そうですね。なんか映画とか見てて、こういう格好は可愛いとか、インテリアとか、衣装のスタイリストは誰なんだろうとか、そういうのはすごい気にしちゃいますね。

内村

映画をさらっと見るというよりは、お店にも何か活かせないかという視点で見ていらっしゃるということですね。コーディネートの提案やセレクトイメージなどにも活きてきそうですね。

 

藤川

そういうのもあるかなと思います。インスピレーションが浮かんでくるきっかけにもなっていますね。

 

内村

なるほど〜これはなんか名店の秘訣にも関わってきてそうです…

 

 

 

"Debby"では多くの魅力的なイベントが開催されているようですが、これはお客様との交流を大切にされていることなのでしょうか?

 

藤川

先ほどの延長になってしまうかもしれないのですが、お客様から求められることもあって、こういうのをやってくださいみたいな。お客様が一個人では出来ないことも、私やDebbyを通すことで実現出来ちゃうこともあるから相談してくれるのかなと思いますね。

 

内村

なるほど。事例などあったら教えていただくことは出来ますか?

 

藤川

最近だと、うちのお客様も行っている私の大好きなご飯屋さんがあるんですけど、そのお店が海の見える場所にリニューアルオープンされたんですね。同じタイミングで、別のお客様がヨガの先生になったので、その方を呼んでヨガイベントをやって、お昼にランチ会をやりましょう!みたいな話がありました。

 

内村

お客様とお客様の架け橋になるということですね。

 

藤川

そうなんです。まだスタートされたばかりの方だと、それを思い描いていても集客することが難しいので、Debbyのお客様にってことだと思うんですよね。

 

内村

へ〜そこまでやられているんですね! 正直驚きました。ちょっとした旅行会社みたいな仕事になっていますね(笑)

 

藤川

確かにそんな感じかもしれません(笑)

 

きっとお客様の頭の中の構想で「こういうのがあったらいいな」というのが、私やDebbyのフィルターを通すと実現出来るという感じなんじゃないかと思うんです。 もちろん私も楽しいし、役に立ちたいという気持ちはあるので!

 

内村

ちなみにそういった場合、藤川さんで何名くらいの方を集められるんですか?

 

藤川

今回のイベントは広さやキャパシティの兼ね合いもあるので6〜10名程度って感じですかね。 イベントの規模によって言われた人数はある程度集められると思います。

 

内村

そうなんですか!?それはすごいです!もし広いスペースが確保出来て、もっと呼んでほしいと言われたら何名くらい集められるものなんですか?

 

藤川

必要な人数が多くなるならば、ただ呼びかけるだけでなく、自分はオプションなどを付けて企画の価値を上げて集めていくと思います。さらに人をつなげたりして。

 

内村

企画も作って集客していくんですね!(笑)

集客力に加えて、企画力もあるとは…もはや洋服屋さんの領域をはるかに超えていますね(笑)

 

藤川

そうかもしれませんね(笑)

楽しいことが何より大事なので!

 

 

後編(Sings)に続く…

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