ブランドが成功する上で、人間性やストーリー性も大きな影響を与えると思っております。 藤戸さんのブランド「FUJITO」における人間性やストーリー性について教えていただけますか?
藤戸
ないですね〜 。人間性とかってメディアとかの後付けですしね。 見た目とか方言が面白いとかは正直どうでもいいと思っていますね。 結局は物じゃないですか。物にパワーがあって売れないことにはどうにもならない。 僕らに対してめっちゃオモロイ奴がいるって評価してくれたとしても、作る服が着れないってなれば意味がないでしょ。
内村
確かにそうですよね。 背景やストーリー、哲学などはブランドを作り上げていく上で積み上がっていくものですもんね。
藤戸
まあね。そもそもブランドが存在していなかったら興味なんか湧かないでしょ。 だから卵が先か鶏が先かの話になってくるわけで、やっぱり僕は物ありきでフューチャーして欲しいんですよ。 物にフューチャーしてもらうために、僕らはこうやって表に出て行かなきゃいけないというだけの話です。 その上で僕の人間性を評価してもらって、ちょっと行ってみようかなと思ってくれる方が1人でも増えるのなら、それは嬉しいですけど。
内村
人間性やストーリー性に本質が存在するのではなく、あくまで物に本質を求めているので、プラスα程度ということになるのですね。
藤戸
そう考えています。 僕は有名人でもないですし、なりたいわけでもないですしね。 服売って流通やってますからね。 僕が売れてもしょうがないですよ。(笑) 仰る通りで、ブランドの知名度が上がってきたところで質問された時の答えが、人によっては面白く聞こえたり、そういう背景があったとは素晴らしいですね〜的な感じになってるだけですよね。みんなそうだと思いますけどね。 そうでなければお金使ってそれを作りあげるみたいな話にもなってくるじゃないですか。 もちろん今だと人の紹介や出会いを作ったりっていう人脈作りみたいなのもあるのかもしれませんが、地方ではそういう機会がなかったので魔法は使えなかったんですよ。(笑)
内村
魔法!(笑) 藤戸さんは徹底して本質を貫いていらっしゃいますね。 でもその魔法を使っているブランドも最近は多く見かけるような気がしますが、その辺りはどう思いますか?
藤戸
そりゃ使える場所にいたら、僕も使っていたと思うので、それは全然いいと思います。 ただ僕の場所にはそれはなかったので。もうコツコツやるしかなくて、結果として本質的な考え方になってしまいました。 今ではそれが持続性につながっていて良かったと思っています。
内村
地方の良さとは、東京とは違った少し緩やかなペースで進められるということですかね?
藤戸
僕はそんな気がしていて、それが福岡みたいなところの魅力だと思っています。 もちろん地域によって特性はあると思いますよ。 僕が割としつこいっていう性格もあってのことかもしれませんが。(笑)
以前お会いした際に、ヴィンテージに対する愛はあるけれど、それが過度な崇拝に傾くことを避けるというお話をお伺いしました。デザインにおいて伝統(ヴィンテージ)と革新(現代)のバランスを保つためにどのような側面を重要視されていますか?
藤戸
まず、レプリカブランドという言い方が正しければ、そこにはならないように心がけています。なぜかというと僕が似合わないんですよね。もはや古着すら最近は似合わないんですよね。50歳手前になると古着が好きな人になっちゃうんすよね。なんか抜け感がないというか。
内村
それはコスプレっぽくなってしまうという感じですか?
藤戸
それもそうだし、僕ももういい歳なんで変なハマり方をしてしまって外せないんですよ!(笑)
内村
なるほど(笑) 若い頃は古着というアイテムがコーディネートの外しとしての役割があったのですね
藤戸
「若いのに渋いの履いてるね〜」とか。「そのTシャツなるほどね〜」ていうギャップがファッションだと僕は思っていたんだけど、今はちょうどぴったりなんですよ!(笑)
もちろん古着は今でも購入しているけれど、それは古着のディテールを参考にして、自分の洋服に取り入れたり、活かしたりすることが大切だと考えているからです。古着が醸し出す匂いみたいなものがあるとしたら、そういうものをディティールで拾って表現している感じかな。内村さんに購入していただいたニットなども、古着好きな人が見るとクスッと笑える魅力がディテールにあれば、それはそれでいいんですよ。別にそれを大げさに宣言する必要もないし、普通に洋服が可愛いから、おもしろいからって着てもらうのが一番いいなって思うんですよね。
それで、毎日着て欲しい!朝出かける時にバチバチに決めてやろうみたいな感じの時にはFUJITOって服はそんなにいらないんじゃないかと思ってるね。通ってくれているお客様は、普段通りの服装でありながら、何となく高揚感を引き立ててくれるようなアイテムとして、ずっとFUJITOの服を選んでくれていると思うので、そのポジションを見出しているんです。
内村
20年前に立ち上げた頃は、ヴィンテージの要素がもっと濃かったのですか?
藤戸
そうですね。もっと色濃かったとは思いますが、そこを何とか工夫して引き算はしていたと思います。
内村
なるほど、引き算のアプローチは、古着に興味がある方以外にも、普通に洋服を楽しんでくれる方にも影響を与えている要素なんですね?
藤戸
だといいなと思ってずっと続けているんですけどね。(笑) そういえば国産時計も時計のルーツを持つ海外の時計に対して、そのようなアプローチをずっと続けてきたわけですよね。内村さんの記事も読ませていただきましたが、中身(ムーブメント)の発展によって、海外を超える可能性がある時代があったという話は非常に興味深かったです。元々のルーツみたいなものを大事にしながらも、戦う場所をちょっと変えてここでいけるんじゃないかという戦い方は参考になりました。そこで思ったのですが中身(ムーブメント)の質に絞ったのは鉄の質が良かったのではないかという説はありますよね?
内村
はい、確かにそれはありそうです。当時の鉄は密度とかもすごいようです。そうなると金属の摩耗が少ないとか、そういうことに繋がります。
藤戸
そうですよね。こういった背景からも、今回のイベントとかって親和性があるのかなと思ってるんですよね。ちょっと時計を見せてもらってもいいですか?
内村
ぜひ、ご覧ください。この時計は約50年前のものになるのでジャンルとしてはヴィンテージにはなるんですけど、いい意味でヴィンテージ感が抑えられていて現代のコーディネートも邪魔しないと思っています。
藤戸
ほんとそうですね。よく見るとリューズが面一で綺麗に収まっていたりとか実際に着けやすいんですよね。あと僕みたいに体型の話もあると思うのですけど、やっぱりこのくらいのケースサイズがいいですね。シャツのカフスもかわしてくれてジャケットにも合うしすごくいい。最近の主流のケースサイズは何mmくらいですか?
内村
40mmを超えてくる時計が多くて、厚みも薄いのはなかなかないですね。聞いた話なのですが、どうやら今は落下した時の耐久性など、安全基準が決まっていて、それありきでデザインを起こすので薄くするのは難しいようですね。そういったところもヴィンテージにしかない魅力にもなると思うんですよね。
藤戸
そうですよね。先ほどお話しした持続性の優先順位の話に戻るんですが、何を主たるテーマとして物作りとか物に向かっていくかは、時代の背景が出ると思うんだよね。今は安全基準とかコンプライアンスとか、そういうところに向かって時代の流れがあるので、やっぱり攻めきれてないですよね。
内村
物作りが時代の変遷に即しているというのは確かにおっしゃる通りですね。
藤戸
今日は僕の好きな時計を持ってきてまして、これはインターのマーク11なんですけど、34mm〜36mmくらいのサイズを探してたらこれに行きついて。でもやっぱりパイロットウォッチだからどうしても厚いんですよね。物としてはすごい可愛くていいんですけど、普段つけるにはちょっと重いんですよ。だから今回見せていただいたロードマーベルの文字盤をカスタムしている感じの辺りが結構グッときたんですよね。でもこれって原理主義者の方からするとちょっとNGじゃないですか。(笑) もうリダンなんかしちゃったのかよ〜みたいな。
内村
確かに駄目って言われちゃいそうですね。(笑)
藤戸
この辺のモデルで、このくらいちゃんと抜けた感じに仕上がっていると、これでいいんじゃないかと僕は思っちゃいますね。今の技術で綺麗な文字盤がちゃんとハマっているとなると、その辺のミックス感とかもとてもいいですよ。
内村
ありがとうございます!そう言っていただけると嬉しいですね。その辺りの感覚は、僕がやってきていることとFUJITOとの相性が良いようにも思えました。
藤戸
そうですよね、本当にちょうど良いんですよ。我々のお客様にも受け入れられると思います。確かに、歴史的な裏付けと職人の技術が詰まっているだけでなく、それでいて少し軽さもあるので、ファッション性を見出しているのも素晴らしいですね。
物を身に着ける際に「似合う・似合わない」というのはとても重要だと最近思うんですよ。よく求められるのは、品質やディテールの話にどんどんなりがちなのですが、もちろんそういった意味で僕らは悪い物を提供することはないので。ただ「似合う・似合わない」とは別の話で、それは個人差があるわけですよね。
例えば、今回もモデルをいくつか用意していただいたり、ベルトをカスタマイズできるようにしていただいたりすることで、必ず似合う1本を見つけることが出来ると思うんですよね。
内村
仰る通りで、組み合わせは多種多様で、お探しのスタイルが見つかると思います。
藤戸
時計に限らずで、自転車や車、靴など、自分が愛するものに関して、似合うかどうかという要素は非常に重要になってくるんじゃないかと思うんですよね。無理して頑張って、そういった車に乗ってたりとかあるじゃないですか。それよりはもっと客観的に「なるほどね、そういう車乗りそうだもんね。」という"その人らしさ"の評価を受ける方が良いですよね。自分が似合っていると思っていても、周りから「お前らしくないよ」という評価を受けることってよくあることだと思っていて。そうした失敗を繰り返しながら、最適なアイテムを見つけ出していくんだと思うんだよね。
内村さんの時計で言えば「俺はこれなんだ、もう一生これでいいです!」って言い切れる一本に出会っていくのが楽しいし、それが嗜好品だと思うんですよね。別になくても困らない物じゃなですか?
内村
その通りです!
藤戸
やはり、嗜好品というものは似合っているかどうかも価値を高める上で重要な要素だと思います。内村さんの提案されている国産時計には、余白がしっかりあるんですよ。
内村
その表現は僕もしっくりきました。もちろん時計修理技師としての自分なりのアウトラインは持っていますが、その上でお客様にできるだけ自由に選んで楽しんでいただきたいという想いを込めてご提案させていただいています。
藤戸
実際に古着でもそういうのはあるんですよ。そのラックにかけられているヴィンテージのA-2と呼ばれるフライトジャケットなんですが、これは形も短くてガチガチの革で、まさに「トップガン」のような雰囲気ですから、これに合わせるのはかなり難しいアイテムなんですよ。(笑) ヴィンテージの価値が落ちるからジッパー一つ触ったら駄目よっていう人達ももちろんいます。でもこれを上手く今の気分に合わせて格好よくリサイズして提案するというジャンルも今はあって。その辺りなんかは共感できる部分がありますよね。
内村
それわかります!ヴィンテージにリスペクトしつつも、現代の気分を表現すること、つまり「余白」を残すという意識が、バランスを保つ秘訣になるような気がしました。
内村時計店は、来年で80周年を迎えることとなります。3代目として3年が経ち、僕の代で100年を目指す考えです。今後の展望やアドバイスをお聞かせいただけますか。
藤戸
僕からはないですよ〜(笑) 一つだけあるとすれば、健康を維持して続けていくことが何よりも大切だと思います。
内村
確かにそうですよね〜。藤戸さんが掲載されている記事で、ジョギングをされているというのも拝見しました。
藤戸
ジョギングは週に一度程度のペースで走っています。続けていきたいので、ゆるりと楽しんでおり、全く追い込まないようにしています。(笑)
例えば今回みたいにこうやって福岡にこられたりするじゃないですか。泊まった場所で翌日早起きして少し走ると、街を覚えたり出来るので楽しいですよ!
特にイタリアやパリなどの海外の店は、ウィンドウがしっかり作られているので、ジョギングして気になるウィンドウがあったら昼に行ってみようとか。本当に素晴らしいことだらけですよ。頭の中もスッキリして整理されるので、心地もよいですしね。
あと僕らの仕事では服が似合っていることが重要なので、体型維持は大切ですよね。内村さんって何歳でしたっけ?
内村
36歳です。
藤戸
40歳になったあたりから体の衰えを感じることがありますよ。(笑)
内村
急にきますか?(笑)
藤戸
ガクッときますよ!何〜どういうこと!?みたいな感じになるんだけどね。なんかね、自分のやりたいことがあって、作りたい物作りがあって、伝えたいことがあるとするじゃないですか。それがあるんだったらやっぱりそこに行くまでにちゃんと続けていきたいじゃないですか。やりたいことを実現する前に身体がついていかなくなることは、本当に残念だと思います。僕から言えることはそれだけですね。健康はお金では買えないものですからね。
あと、内村さんが手がけている国産時計は世界的にも注目されており、今後もその個体はどんどん減少していきますよね。それを修理を含めてご提案していけば今後ますます忙しくなると思うんですよ。これは僕の想いですが、日本国内での流通を維持してほしいですね。今の時点でも外国人がすごく買いあさっているじゃないですか?
内村
そうですね。中国をはじめアジア諸国は特に勢いがありますね。
藤戸
それって一度流出してしまうと戻ってこないことが多いんですよね。僕は車が好きなのですが、昔イギリスやイタリアなどで製造された優れた車が日本に入ってきて、良い状態で残っているらしいんですよ。日本には上手にメンテナンスが出来る職人が多く存在し、車を綺麗な状態に保つことができたそうなんです。その結果、これらの車は良い状態で残っていたのですが、現在は円安の影響もあり、これらの車がどんどん国外に流出してしまっているのです。異なる業界でも、同様のことが起こり得ると思うんですよ。そうした背景からも、この時計を今のタイミングでお客様に見ていただきたいという想いがあるんです。
内村
確かに今後10年や20年後に、このレベルのクオリティの時計をご用意することは極めて難しいかと思いますので、ぜひこの機会に見ていただきたいですね。
藤戸
これを守り続けていただければ、必然的に続いていくお仕事だと思っていますし、むしろそういう人達が減ってきているので、何とか内村さんには頑張ってほしいですね。多少でも応援できればと心から思っています。
内村
ありがとうございます!
「いいモノづくりの物を安心して長く愛着を持ってお使いいただく」ということが、僕の活動のメッセージですので、それを一緒にお伝えいただければ嬉しく思います!