364日

364日

百貨店マン人生の幕開け

およそ10年前、就活生だった僕は 『接客を通してお客様のお役に立てる仕事がしたい』そう思っていた。そんな念願が叶い、大手百貨店に入社。僕の百貨店マン人生が幕を開けた。

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『経営学部卒、同期の中で一番マーケティングセンスもあるだろう。接客も大好き。スピード出世してすごい催事をぶちかましてやるんだ』という根拠のない自信と、やる気にみちあふれてはいたが、僕は"能ある鷹は爪を隠す"タイプ。すごく静かな新入社員だった。

上司からは『新入社員なのに全然元気がないやつがいるって有名だぞ』と言われた。ノウアルタカハツメヲカクス...

新社会人、刺激的で忙しい日々を過ごしていった。

 

ある日の違和感...

ある日、年配のお客様が、購入したお米をとても重たそうに持って歩いているのを見かけた。お聞きすると、駐車場に停めた車まで持っていくという。駐車場まで手伝ってあげたいと思ったが、上司からの指示でそれが出来なかった。重たそうにしているお客様をただ見送り、何にも出来ない僕...

ある日、お客様が『購入したワインのサイズにちょうど合う手提げ袋をいただけませんか?』と声を掛けてきた。先輩社員が対応した後、お客様は不満そうに立ち去っていった。すると『そんな都合の良い袋なんてないんだから、しょうがないじゃんねぇ』と言う先輩。その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが切れてしまった。

大きな企業がお客様一人一人の"細かな要望"に対応することはとても難しい。そしてそれは企業のコストパフォーマンス的にも不正解かもしれない。だがその"細かな要望"を敏感に感じ取り、お客様のお役に立つということを純粋に追求していくことこそが百貨店の価値だと僕は信じていた。

『もしかして僕の考え方は、この会社の役には立てないのではないか...』

 

眼鏡・時計の内村

それからおよそ1ヶ月後、僕の百貨店マン人生は『364日』で幕を閉じた。

仮にも大手百貨店ではあったので、1年も経たずに退職した人は、不祥事を起こしてしまった人ぐらいかもしれない...

そんな僕には、この思いを実現出来る可能性のある場所があった。それは父の店である。それまで全く継ぐ気もなく、全く興味もなかったが、自分の好きなだけお客様と向き合い、お役に立つことを純粋に追求出来ると思い "眼鏡・時計の内村"を継ぐことを決めた。

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純粋な追求

『とりあえずこの会社で3年は働いてみた方が良いよ』
百貨店を辞めようとしていた時に、たくさんの方に掛けていただいた言葉。あれからおよそ10年、後悔したことは一度もない。

『とりあえず3年働かなくて困ったこと』
・エクセルができない
・パワポもできない
・資料作りもままならない

だけど僕は眼鏡、時計修理を通じてお客様のお役に立つことが出来ます。

大手百貨店にいた時の自分よりも、お客様のお役に立てているという自負はある。ただ、自分なりではあるけれど、今もお客様のお役に立つことを追求し続けられているのは、百貨店でのあの『364日』があったからだと思う。このことを決して忘れずに、これからも僕がお客様に対して出来ることを純粋に追求し続けて行きたいと思う。

僕には到底出来なかったけれど、大企業を変えようと、今も強い意思を持ち続け、頑張っている同期や同僚の方、本当にリスペクト。形、立場は違えど、ともに刺激しあえる関係でありたい。

 

閉店ガラガラ

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